名曲列伝【21】"Summertime"/「サマータイム」【1935】

今回取り上げる”Summertime”【wiki】は大変高名な曲。ジャズ・ファン層以外の音楽ファンにも良く知られております。

初出は1935年。20世紀アメリカを代表する作曲家ジョージ・ガーシュウィン【過去記事】が発表したオペラ「ポーギーとベス」【ウィキ】 の挿入歌として世に出ました。

「ポーギーとベス」は、当時としては異例なことに、黒人居住区が舞台。もちろんキャストのほとんどは黒人。ガーシュウィンは制作にあたって当時の黒人音楽を綿密に取材。ジャズや黒人霊歌などの要素を楽曲に取り入れます。

ジム・クロウ法【ウィキ】が厳然たる効力を持っていた1935年に黒人を主役にした演劇を上演するということ自体が異例中の異例ですし、黒人音楽をベースにしたことももちろん異例。 上演されるや否や評判を呼び、現在でも世界中で頻繁に再演されるほどの人気/知名度を得るに至りました。

「ポーギーとベス」の劇中使用曲からは、”Summertime”のみならず、”I Love You,Porgy”、”My Man’s Gone Now”、”It Ain’t Neccesarily So”もジャズ・スタンダード化しております。

そもそもガーシュウィンが書いた原曲はどのようなスタイルだったのかという点ですが、大元であるオペラ「ポーギーとベス」自体を鑑賞したことがなくいまひとつピンと来ないのですが、youtubeにガーシュウィン版と思われるバージョンが多数あります。その中からひとつを。

Kathleen Battle “Summertime”。

クラシック音楽に疎い私のような者が聴くには、正直なところ若干の苦痛を伴うタイプの音楽に思えたり。

原曲はオペラ楽曲ではありますが、”Summertime”は、ヴォーカル/インストゥルメンタルを問わず、かなり多くのジャズメンが取り上げている上、R&B系、Pops/Rock系アーティストにもカヴァーされてきた歴史があります。

ひな型曲としてまず大変著名な2つの演奏を紹介します。まずはマイルス・デイヴィス版。

マイルス=ギルのコラボ第2作”Porgy and Bess”【1959】収録。マイルス・ヴァージョンとは言うものの、今作の音楽性は編曲家Gil Evans【過去記事】に大きく依存していると考えるべき。マイルスはアドリヴなしにメロディを吹くだけ。実質的にはギルの解釈する「サマータイム」といったところでしょうか。マイルスがリリカルに吹き、ホーン・セクションが後を追う。ロマンティックかつ美麗な名演です。


Miles Davis “Porgy and Bess”【1958】
マイルス・デイヴィス 「ポーギー・アンド・ベス」【1958年】

次にチャーリー・パーカー版。以前紹介した「72枚目:Charlie Parker “Charlie Parker With Strings”【1949/1950】」収録。

ウィズ・ストリングスもの(綿密にアレンジされた弦楽器との共演盤)ですので、アドリヴの余地はあまりなく、バードはメロディ重視。バード本来の凄みは出ませんが、ロマンティックなイージー・リスニング楽曲として魅力的。ディープなジャズ愛好家以外のリスナー層にもアピールするのではないでしょうか。



Charlie Parker “With Strings”【1949/1950】
チャーリー・パーカー 「ウィズ・ストリングス」【1949年/1959年】

“Summertime”の初出は先ほども触れましたように、オペラ「ポーギーとベス」の初演時。つまり1935年です。翌1936年には3大女性ヴォーカリストのひとりビリー・ホリデイが録音し、全米ポップチャートで12位にランク・インするヒットとなったそうです。

Billie Holiday “Summertime”【1936】。

アーリー・ジャズ愛好家諸氏は一発でお気づきかと思いますが、このビリー版最大の特徴は骨格をW.C Handy作スタンダード曲”St.Louis Blues”から拝借している点です【参照:1940年以前のジャズ【5】W.C. Handy/W.C.ハンディ【1873-1958】】。

楽器奏者が主役のインストゥルメンタル版で最も古いバージョンとして著名なものは、ニューオリンズ系クラリネット/ソプラノ・サックス奏者シドニー・ベシェ【過去記事】が1939年に発表したものではないでしょうか。

朴訥なブル-ズ・ギターとベシェが絡み合う素晴らしい演奏。



Sidney Bechet “Blues in the Air”
シドニー・ベシェ 「ブルーズ・イン・ジ・エア」

ウェス・モンゴメリーによるギター・バージョン。以前紹介したThe Montgomery Brothers名義で発表したた”Mongomeryland”【1958】収録。

クールでスムースなウェス節全開。



The Montgomery Brother “Montgomeryland”【1958】
モンゴメリー・ブラザーズ 「モンゴメリーランド」【1958年】

トロンボーン奏者ベニー・グリーン【過去記事】バージョン。”Hornful of Soul”【1961】。

Org:Skip Hall/ts:Jimmy Forrest/D:Art Taylor【参照:Discogs Hornful of Soul】。



Bennie Green “Handful of Soul”【1961】
ベニー・グリーン 「ホーンフル・オブ・ソウル」【1961年】

ピアニスト:ジーン・ハリス率いるスリー・サウンズ・バージョン。”Here We Come”【1960】収録。

最初の2分弱はしっとりと進行。1:50過ぎからベース/ドラムスの重低音が強調され、ハリスのピアノはブルージーに。



The Three Sounds “Here We Come”【1960】
スリー・サウンズ  「ヒア・ウィー・カム」【1960年】

ピアノ・トリオによる”Summertime”と言えば、コレを紹介しない訳にはいきません。以前「92枚目:Charles Mingus “Mingus Three”【1957】」で紹介したチャールズ・ミンガスによる究極の「変態バージョン」。

鈴、リッチモンドのドラムスに続き、聞こえてくるミンガスの変態ベース。ホーズのピアノが始まっても関係なし。途中リッチモンドによるピアノ・トリオにしては異例に長いソロを経て、ふたたびミンガスは変態ベース。彼には「原曲の良さを生かそう」なんて心づもりは一切なし。常識をぶっ壊し、自分色に染め上げるだけ。



Charles Mingus “Mingus Three”【1957】
チャールズ・ミンガス 「ミンガス・スリー」【1957年】

クラシックに造詣の深いジャズ・ピアニスト、ジョン・ルイス率いるMJQバージョン。”Porgy and Bess”【1965】収録。



The Modern Jazz Quartet “Porgy and ess”【1965】
モダン・ジャズ・カルテット 「ポーギー・アンド・ベス」【1965年】

ここでyoutubeからライヴ映像を。クラシック界を代表するバイオリニスト:イツァク・パールマンとMJQの共演による”Summertime”。

先ほどのスタジオ録音も同様ですが、ジョン・ルイスの音楽的汎用性の高さを示す一例ではないかと。クラシック寄りのコラボですので、哀しいことにコニー・ケイにほとんど仕事はありません。

ジャズメンによる”Summertime”はこの他にも大量に録音が遺されております。思い浮かぶだけでも、Ella Fitzgerald、Sarah Vaughan、Duke Ellington、Hank Jones、John Coltrane、Billy Taylor、Herbie Mann、Dinah Washington、David “Fathead”Newman、Gigi Gryce、McCoy Tyner、Murcus Miller、Oscar Peterson、Shirley Scott、Vi Redd、Stanley Turrentine、大西順子などなど。興味をお持ちでしたら、是非ともyoutubeで検索をしてみてください。

ここからはジャズ以外のアーティストによる演奏をいくつか。

“Only You”【1955/youtube】などで知られるR&B系コーラス・グループThe Plattersバージョン。

オルガン奏者Booker T.Washington率いるR&B系インストバンドBooker T and the MG’sバージョン。”And Now!”【1966】収録。



Booker T. and the MG’s “And Now!”【1966】
ブッカー・T・アンド・MGズ 「アンド・ナウ!」【1966年】

ジャズ以外の”Summertime”と言えばこの演奏を紹介しない訳にはいきません。Big Brother and the Holding Company “Cheap Thrills”【1968】収録。

ソロとして独り立ちする以前にジャニス・ジョプリンが在籍していたBig Brother and the Holding Companyの2ndアルバム”Cheap Thrills”収録曲。刹那的なギター・サウンドは約半世紀経過した現在聴いても刺激的。



Big Brother and the Holding Company “Cheap Thrills”【1968】
ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー 「チープ・スリルズ」【1968年】

後期ビートルズの実質的には五人目のメンバーだったエレピ奏者ビリー・プレストン【ウィキ】によるTVライヴ。ハモンドB3での演奏。

面白いことに、中盤からプレストンはモノマネ・ショーを開催。2:40過ぎから「もしもバッハがサマータイムを弾いたら・・・」。3:45からは「もしもレイ・チャールズが・・・」。

最後に残念なニュースを。

クラーク・テリー氏が死去 米ジャズ・トランペット奏者【日経新聞2015年2月23日付】

テリーは1920年生まれですので、バードと同じ年生まれ。モダン・ジャズ世代ではありますが、テリーは1940年代後半から1950年代前半をカウント・ベイシー・オーケストラ、1950年代後半をデューク・エリントン・オーケストラに在籍。基本的にはビッグ・バンドで才を発揮するタイプのトランペッターでした。

これまで紹介したテリー参加作品は、以下の通り。

29枚目:Quincy Jones “Big Band Bossa Nova”【1964】

86枚目:Dinah Washington “Dinah Jams”【1954】

ライヴ盤列伝【5】Duke Ellington “Ellington At Newport”【1956】

wikipedeia:Clark Terryを参照すると解りますが、かなり多くのリーダー作を発表しております。中にはモダン・ジャズ系のアルバムもありました。レコーディング・キャリアは1940年代から2000年代まで。恐るべきキャリアです。

94歳での大往生。ですが、ジャズ全盛期の一翼を担ったジャズメンが亡くなったというニュースを耳にする度に、ジャズという音楽ジャンル自体がフェードアウトに向かっているような寂しさを感じてしまいます。

心よりのご冥福をお祈りいたします。

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