巨人、邂逅ス【13】Lester Young/Roy Eldridge/Harry "Sweets" Edison "Laughin’ to Keep From Cryin’"【1958】

毎度しつこいようで恐縮ではありますが、ジャズの黄金時代は1950年代/1960年代とされております。この時期を「モダン・ジャズ黄金時代」と呼びます。現在流通しているガイドブックですとか名盤本を参照して頂けるとご理解頂けるはずですが、いわゆる名盤と呼ばれるジャズ作品のほとんどはモダンジャズ黄金時代に録音されたものであるのが通常です。つまり、多くのジャズ愛好家の価値基準は、モダン・ジャズ黄金時代偏重主義に依っていることになります。もちろん、私も基本的にはこの物差しを使って日々ジャズに接しております。

若干の争いはあるもののジャズは120年ほどの歴史を持ちます。レコーディング技術の進歩により、1910年代終盤から録音されようになりました。ということは、音源は100年分ある訳です。それ以前の演奏も自動ピアノで再生するためのピアノ・ロール形式なら現存しております。つまり録音されるようになって100年以上の歴史を持っております。

にもかかわらず、全体のたった1/5に過ぎない期間の1950/1960年代が黄金時代とされ、半世紀以上たった2010年代現在も多くのジャズ愛好家に熱狂的な支持を受け続けております。少し偏重しているのはたしかですが、愛好家の総意ですのでこの現象自体には全く問題は感じません。かくいう私も、購入する音源の7割方は黄金時代作品。どの時代の作品よりも刺激的ですし、単純に心地よいというのがその理由です。

ですが、モダン・ジャズ黄金時代偏重主義には1点だけ盲点が潜んでおります。この点につきましてもしつこいほど繰り返し申し上げておりますのでアレですが、今一度指摘させていただきます。それはスウィング・ジャズ世代の業績を見逃してしまうことになりかねない、という点です。

このブログで「スウィング・ジャズ世代」という表現を用いる場合、おおまかに言ってモダン・ジャズ登場以前から活躍していた世代を指します。クラッシク音楽的に言えば古典派、Hip-Hop的に表現するならオールド・スクールと言うことができます。文学的に表現すればモダン・ジャズとは「若者たちによるジャズ刷新運動」と言った感じになるでしょうか。イギ文的に言えば、Angry Young Men【wiki】。映画史的に言えばフランスで起こったヌーヴェルヴァーグ【ウィキ】、アメリカならニューシネマと似た刷新運動でした。それまでのジャズ観に物足りなさを感じていた若手演奏家たちが、音楽理論的にジャズをより高度で表現の幅を広げる方向で進歩させたということです。ですので、モダン・ジャズ作品は冒険的で刺激的ということになる訳です。ある種の反逆です。ご存知のように、反逆ですとか反抗というのは若者の特権。失敗に終わるにせよ、冒険しない若者ほど退屈な者はいません。

この”怒れる”モダン・ジャズ世代に対し、「スウィング・ジャズ世代」は簡単に言うと古株です。モダン・ジャズに必須の革新性のようなものはゼロではないにせよ目立ちません。伝統芸能かのごとく自らの世代が築いたスタイルで演奏します。変わらぬジャズ観で、昔ながらのジャズを演り続けた世代です。

実はジャズの全歴史を振り返ると、「黄金時代」は「モダン・ジャズ黄金時代」【1950/1960年代】の一度だけではありません。1920/1930年代のビッグ・バンド形式によるスウィング・ジャズ全盛期を「もうひとつの黄金時代」と考えるべきのように思えます。というのも、当時のアメリカ社会には未だ人種主義がまかりとおっていたにも関わらず、”元”奴隷のアフリカ系の生み出したジャズは白人音楽リスナー層をも魅了し、多くの白人音楽家がジャズを演奏するようになりました。アメリカ合衆国の1920年代をしばしば「ジャズ・エイジ」【ウィキ】と呼ぶことも、当時ジャズがいかにアメリカ社会を席巻していたかを証明しております。

つまり、ジャズの歴史を振り返る場合、

1920/1930年代 スウィング・ジャズ黄金時代【第一次黄金時代】

1950/1960年代 モダン・ジャズ黄金時代【第二次黄金時代】

以上のように、ジャズはその歴史を通じ2度の黄金時代を経験していると考えるべきだと個人的には思います。

ただし、「第一次黄金時代」がなかなか評価されないのには理由があります。当時の音源は多数遺されてはいるのですが、音質があまりよろしくありません。雑音混じりですし、当然モノラル。迫力のあるステレオ録音でデジタル世代の我々現在の音楽ファンにとって、雑音が多くモノラルは耐えられるでしょうか。かなりディープなアーリー・ジャズ愛聴家以外にそういった音源を聴けというのは酷かも知れません。

試しに、音質のあまり良くないスウィング・ジャズ黄金時代の音源を紹介してみます。Duke Ellington and His Orchestra “Harlem River Quiver(Drive)”【1927】。

この音源はリマスターするなりして修復され、ある程度現代化されているはず。内容的には、当時の最先端のジャズだったと考えられます。モダン・ジャズとは異なり、ビッグ・バンド形式の演奏では全体の中に個は埋没する傾向が強い点で違和感を持たれる可能性もあります。

この音源に限っては音質はそこそこですが、現在的視点で考えると、内容的にそれほど刺激がある訳ではありません。当時としては実験性の高い精密なアレンジが施されていると考えるべきですが、モダン・ジャズに慣れ親しんだリスナー層に諸手を挙げてお勧めすることには若干の躊躇を覚えなくもありません。ソロ奏者による激烈なアドリヴの不存在もマイナス要素です。

以上をまとめますと、【1】スウィング・ジャズ黄金時代を見逃してしまうのはジャズ愛聴家にとっては損失以外の何物でもない。ただし【2】当時の録音は音質があまりよくない【2】内容的にモダン・ジャズ作品ほどの刺激がない、というようにスウィング・ジャズ黄金時代作品は、プラス要素とマイナス要素が混在する困った状況にあることになります。

ですが、解決策がひとつあります。古株であるスウィング・ジャズ系ジャズメンはモダン・ジャズ黄金時代に突入した後も、演奏録音活動を継続しました。つまり、録音技術が格段に向上した時代の録音も多数残されて訳です。これで先ほど挙げたウィークポイントの【2】は解決できます。技術やスタイルは年を重ねるごとに熟成すると考えれば黄金時代作品ではないもの【1】もクリアできます。【3】は基本的に克服できません。特にリズム・セクションの単調さは、モダン・ジャズ作品と比べると明白。味がある、といった表現で気がつかぬフリをする必要があります。

スウィング・ジャズ世代が1950/1960年代のモダン・ジャズ黄金時代に録音した作品は、ガイドブックなどではあまり取り上げられない傾向が強いのですが、もうひとつのジャズ黄金時代を記録した偉大なるクロニクルとしてもう少し評価されてしかるべきではないかと個人的には強く思います。シンプルでストレート・アヘッドであるからこその魅力が彼らの作品にはたしかにあります。また、モダン・ジャズ作品を聴いてもいまひとつピンと来ない/良さが解らないとお感じの方にも彼らの作品はお勧めできます。

これまで紹介してきた「スウィング・ジャズ世代が1950/1960年代のモダン・ジャズ黄金時代に録音した作品」は以下の通りです。

アーリー・ジャズ/スウィング・ジャズ黄金時代を代表するBIG3エリントン/ベイシー/サッチモ作品

Duke Ellington作品

100枚目:Duke Ellington “The Popular Ellington”【1966】

131枚目:Duke Ellington “Piano Reflections”【1953】

ライヴ盤列伝【5】Duke Ellington “Ellington At Newport”【1956】

巨人、邂逅ス【5】”Duke Ellington & John Coltrane”【1962】

巨人、邂逅ス【7】Duke Ellington “Money Jungle”【1962】

Count Basie作品

41枚目:Count Basie “Count Basie In London”【1956】

巨匠、邂逅ス【1】Count Basie/Duke Ellington “First Time! The Count Meets the Duke”【1961】

ライヴ盤列伝【9】Count Basie “Count Basie at New Port”【1957】

Louis Armstrong作品

巨人、邂逅ス【2】Ella Fitzgerald/Louis Armstrong “Ella and Louis”【1956】

巨人、邂逅ス【3】Louis Armstrong & Duke Ellington “The Great Summit”【1961】

スウィング・ジャズ期を代表するソロ・サックス奏者BIG4と言えば、ホーク/レスター/ベン/ベニー大師匠

Coleman Hawkins作品

68枚目:Coleman Hawkins “With The Red Garland Trio”【1959】

95枚目:Coleman Hawkins “Hawkins! Alive! At the Village Gate”【1962】

Ben Webster作品

94枚目:Ben Webster “Soulville”【1957】

Lester Young作品

61枚目:Lester Young/Teddy Wilson “Pres and Teddy'”【1956】

96枚目:Lester Young “With the Oscar Peterson Trio “【1952】

Benny Carter作品

60枚目:Benny Carter “Further Definitions'”【1961】

97枚目:Benny Carter “Swingin’ The 20’s”【1958】

スウィング・ジャズ期を代表するピアニスト作品

135枚目:Teddy Wilson “For Quiet Lovers”【1955】

その他のスウィング・ジャズ世代の作品

85枚目:Nat King Cole “After Midnight”【1956】

107枚目:Harry Sweets Edison “Gee Baby ain’t I Good to You”【1957】

113枚目:Buster Smith “The Legendary Buster Smith”【1959】

124枚目:Henry “Red” Allen “Ride Red Ride In Hi-Fi”【1957】

変わり種Jazz【22】Jay McShann “The Last of Blue Devil”【1977】

Jazzを観る【1】”Jammin’ the Blues”【1944】/”Sound of Jazz”【1957】

繰り返しになりますが、これらの作品は、録音技術が向上した時期に録音されたスウィング・ジャズ黄金時代経験者による貴重な音源。モダン・ジャズとは一味違ったストレート・アヘッドな魅力に溢れた作品です。

今回はスウィング・ジャズ期を代表するサックス奏者BIG4のひとりLester Youngが1958年に発表した”Laughin’ to Keep From Cryin'”を紹介します。


Lester Young/Roy Eldridge/Harry “Sweets” Edison “Laughin’ to Keep From Cryin'”【1958】
レスター・ヤング/ロイ・エルドリッジ/ハリー”スイーツ”エディソン 「ラフィン・トゥ・キープ・フロム・クライン」【1958年録音】

大変興味深いパーソネルが顔を揃えております【参照:wiki “Laughin’ to Keep from Cryin'”】。

ts:Lester Young

tp:Roy Eldridge【wikiウィキ】/Harry “Sweets” Edison【wikiウィキ過去記事

p:Hank Jones【wikiウィキ
g:Herb Ellis【wikiウィキ

b:George Duvivier【wiki
ds:Micky Sheen【wiki

テナー+トランペット2人+ギター+ピアノ・トリオによるセプテット構成。当然3管がフロントということになりますが、レスターと同じスウィング・ジャズ世代を代表するトランペッター、ロイ・エルドリッジ【1911-1989】とハリー・スイーツ・エディソン【1915-1999】が参加。レスター+エルドリッジ+スイーツの共演は、モダン・ジャズ系ジャズメンで言えば、ソニー+マイルス+ブラウンと同じレヴェル。恐るべきビッグ・ネームの共演盤ということになります。ですので、「巨人、邂逅ス」で紹介することにいたしました。

スウィング・ジャズ世代のレジェンド3人を支えるのがピアノ:ハンク・ジョーンズ/ギター:ハーブ・エリス。この二人はご存知のようにモダン・ジャズ世代のビッグ・ネーム。同じくベース/ドラムスのデュヴィヴィエ/シーンもモダン・ジャズ世代。スウィング世代の強力3トップをモダン・ジャズ世代のリズム・セクションが支えるという組み合わせです。ちなみにピアノとギターは上手いこと棲み分けがされており、ふたりが同時に弾くのは稀。基本的にピアニストが弾いている時はギタリストはお休み。逆の場合も同じという感じになります。

1曲目収録”Salute to Benny”。

ハンク・ジョーンズらしからぬ明朗なピアノでスタート。0:37からトランペット。ロイかスイーツかはわかりません。歌うかのごとき奏法はスウィング世代の特徴。だからこそ明快でストレート・アヘッド。1:50辺りからエリスの音が大きくなりトランペットを凌ぐほどに。2:28から2番手のトランペッター登場。5:00からレスター。もっさりとした音に聴こえるかもしれませんが、これがレスターの特徴。

リズムを刻むのはギター/ベースでドラムスはシンバルを堅実に叩くというのはスウィング世代作品の特徴。ピアノはメインの演奏に合わせ茶々を入れるかのごとく弾きます。同じような場面でモダン・ジャズ系作品のピアニストの役割がコードを抑えるのがメインであるのとはやはり異なります。リズムというポイントに絞っても、スウィング世代はシンプル、モダン・ジャズ世代は複雑が基本。ですので、スウィング世代は解りやすく、モダン・ジャズ世代は難解という傾向が強くなります。

3曲目収録”Romping”。

こちらも基本的な構造は同じ。フロントの3管奏者が順番にシンプルでメロディアスなソロを取ります。エルドリッジやスイーツは間違ってもクリフォード・ブラウンのような高速ソロを披露する訳ではなく、至ってシンプル。5:10からエリスのソロ。7:10からハンク・ジョーンズ。8:30からレスター。

個人的にはスウィング・ジャズ世代のシンプルなジャズも素晴らしいと感じますし、モダン・ジャズ世代の複雑な作品も大好き。これらに加え、1920/1930年代のスウィング・ジャズ全盛期の録音もあれば、モダン・ジャズ創世記である1940年代のBe-Bop作品もありますし、1970年代以降のロック・ジャズ/ジャズ・ファンク作品もある訳ですので、ジャズの歴史は大変豊か。ジャズ史は複雑怪奇だからこそ面白い訳です。

 

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