天野貴元の葬儀(一年前の今日)

大変つらい別れではあるけれど、見ず知らずの方とすれ違いざまに会釈しあうだけで通じ合える。これは実際に参列した人にしか分からない思いだ。

―――柿の森(Amazonブックレビューアー)

「将棋世界」2015年12月号へのAmazonブックレビュー(2015.11.6)より
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 「柿の森」という人が「将棋世界」誌のレビュー記事をAmazonによく投稿している。
 私はその愛読者である。

 その筆致、実に辛辣。
 とくに奨励会三段リーグ制度の弊害を繰り返し説いて余念がない。

 彼の主張はこうだ。

 ――三段リーグ在籍者より弱い現役プロ棋士がたくさんいるではないか。だから、三段リーグ上位者と現役棋士の下位者が入替戦を行い、負けたプロ棋士は三段リーグに降格させるべきだ。この入替戦は世間の評判となり、興行としても大成功するに違いない。

 そして、そのやり玉に挙げられるプロ棋士の代表は決まって田中寅彦九段なのである。
 やや偏執狂的なものを感じないわけではないが、面白い。

 そんな柿の森氏が、一年程前にずいぶんとしんみりした文章を書いていた。

 「先週末は幸運にも休みが取れた。当方は一読者にしかすぎなかったが、京王狭間駅に向かわずにはいられなかった。東京の夜は少々寒かったけれど棒立ちはなんともなかった。参列された皆様と一緒に祈りを捧げた。大変つらい別れではあるけれど、見ず知らずの方とすれ違いざまに会釈しあうだけで通じ合える。これは実際に参列した人にしか分からない思いだ」

 二〇一五年十月三十一日、東京都八王子市の宝泉寺別院で営まれた天野貴元の通夜には四百人が訪れたという。
 柿の森氏もその中の一人だったのである。

 「半径10メートル以内に近づけないほど強烈なオーラを発散している人物を駅のホームで目撃した。確か前日は札幌だった気が……多忙なスケジュールの合間を縫っての参列か……本当に嬉しかった。
 〈彼〉がタイトルを奪還してほしいと思うだけでなく〈ponanzaにもAWAKEにも大樹の枝にも絶対に負けるな!!〉と応援したい気持ちがよりいっそう強くなった。
 あの日あの場所に実際に参列した人にしか分からない思いを共有できたことが嬉しかった」

 〈彼〉とは渡辺明のことである。
 当時糸谷哲郎竜王に挑戦中で、その第二局が通夜の前日に終わったばかり。対局場の札幌から帰ってすぐの参列に柿の森氏は感激で胸を熱くしたのだった。

 参列者四百人が故人へのそれぞれの思いを胸にし、そしてまた大いなるものを共有した通夜であった。

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