初のICBM迎撃実験に成功:米本土ミサイル防衛(GMD)とは

GMD20140622

ミサイル防衛局より)

初のICBM迎撃実験

GMD(Ground-based Midcourse Defense:地上配備型ミッドコース防衛)の迎撃実験「FTG-15」が行われました。初のICBM(大陸間弾道ミサイル:射程5,500km~)級標的の迎撃実験です。

Homeland Missile Defense System Successfully Intercepts ICBM Target(2017/5/31 ミサイル防衛局)

実験の概要は、マーシャル諸島のロナルド・レーガン弾道ミサイル防衛試験場(RTS)から発射されたICBM標的に対し、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地から迎撃ミサイル「GBI」がミッドコースの大気圏外で迎撃しました。GBIによる迎撃実験としては2014年6月の「
FTG-06b」以来3年ぶりの成功です。

◇ ◇ ◇

ICBM迎撃実験は2012年には計画が発表されており、本来は2015会計年度第4四半期に実施されるはずでした。しかし、後述するような開発の遅れからスケジュール通りに進まず度重なるの延期を繰り返し、今回ようやく実施されたという背景があります。したがって、GMDが北朝鮮やイランのICBMに対応するものであるというのは正しいのですが、ここ数年の北朝鮮のミサイル開発を牽制するために「FTG-15」を実施してみせたというような報道は、時系列的にいささかこじつけた見方となります。

GMDとは

GMDの実験頻度は少なく、他のミサイル防衛システムに比べて触れることもあまりないので、ここでちょっとまとめておきたいと思います。自分用のメモ代わりですが、本稿をきっかけに米本土ミサイル防衛システムについても関心を持っていただければ幸いです。

GMDとは、北朝鮮やイランの弾道ミサイル攻撃から米国本土を守るための地上配備型ミサイル防衛システムです。GMDで用いられる迎撃ミサイルは「GBI(Ground Based Interceptor)」といい、3段式固体燃料ロケットです。イランがICBM開発に成功し、固形燃料式ICBMを発射した場合、弾道頂点は高度約1,600km(下図)。GBIはミッドコースでこれを迎撃する設計であるため、射高は2,000kmほどの能力があると見られます。


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(米議会予算局(CBO), Options for Deploying Missile Defenses in Europe, February 2009, p. 9.)

SM-3やTHAAD、PAC-3がそれぞれ異なる役割を担っているように、GBIも担当する相手が決まっています。


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上図は、SM-3、THAAD、PAC-3が迎撃する目標のイメージ。


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そしてこちらが、GMDが受け持つ迎撃目標のイメージです。

GBIの標的はICBMです。それも、米本土へ向かってくるICBMを迎撃します。同じ地上配備型システムのTHAAD、パトリオット・システムなどのような移動発射式ではなく、地下の固定サイロに配備されているために、グアムやハワイへ緊急展開するようなことはできません。

北朝鮮やイランから米本土へ向かう弾道ミサイルは、ICBM級のものしか届きません。ICBM迎撃に関しては、SM-3ブロック2Aにも限定的能力があると思われ、ハワイ程度の面積であればカバーできるかもしれません。しかし、広い米本土全域をICBMから守るためには不十分です。GBIは、米本土防衛用・対ICBM専用の迎撃ミサイルなのです。

すでに配備は開始されている

GBIには、「CE-I」と「CE-II」の2種類のEKV(大気圏外迎撃体)があります。「CE-I」は2005~2010年に5回の実験を行い、そのうち3回が迎撃実験でした。3回の迎撃実験はいずれも成功とされています。ただ、「CE-I」は十分な持続可能性を持たないと評価され、2004~2005年から「CE-II」の開発が始まりました。「CE-II」の配備は2008年から始まっているのですが、後述するように開発が難航し、開発費も2016年までに20億ドルへと膨らんでしまいました。

これまで、GBIはフォートグリーリー基地(アラスカ)に26基とバンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア)へ4基配備されていました。


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(平壌を中心に正距方位図法で見るフォートグリーリー基地とバンデンバーグ空軍基地の位置。)

2013年3月、北朝鮮の弾道ミサイルの長射程化を受けて、このGBIを14発増やして44発にするという発表があり、2016年末時点で計36発のGBIがサイロに配備中です。


GMD_2017


(CSIS, Missile Defense 2020: Next Steps for Defending the Homeland, April 2017をもとに作成)

2017年末までに残り8発の「CE-IIブロック1」が追加配備される計画です。

他に、東海岸へ最大60発のGBIを配備する計画もあり、新たなGBI設置場所の環境アセスメントがスタートしています。

難航する開発

SM-3、THAAD、PAC-3が迎撃実験において優秀な成績を収めているのに比べ、GMDは順調とはいえません。

2010年12月の「FTG-06a」(迎撃失敗)で「CE-II」に不具合(振動問題)が見つかりました。以降、原因究明に時間をかけ、2011、12年は主だった実験が行われず、2013年1月にようやく実験を再開し、飛行実験「CTV-01」に成功しました。

同年7月に「CE-I」を用いた長距離弾道ミサイルの迎撃実験「FTG-07」に失敗。原因は、「CE-I」自体やシステムの不具合ではなく、GBIの三段目ブースターの切り離しがうまくいかなかったことでした。宇宙や地上、海上に配備されたセンサー群や、そこから得られるデータのリンク及び処理は機能し、標的の探知、追跡、識別などは問題なかっただけに、「CE-I」の改善点を確認できなかった点は大きな痛手でした。

「FTG-06a」の失敗の結果、問題解決と迎撃実験の成功までは「CE-II」の調達が停止され、2013年に決定した14発の追加配備も「CE-II」迎撃実験成功まで待たれることとなっていました。

そうした状況の中、2014年6月に「CE-II」を搭載したGBIによる3度目の迎撃実験「FTG-06b」が行われ、中距離弾道ミサイル標的の迎撃に成功します。2008年12月の「FTG-05」以来5年6ヶ月ぶりの迎撃成功であり、「CE-II」にとっても初めての迎撃成功でした。

2016年1月には、EKVのDACS(軌道修正・姿勢制御装置)の動作確認及び、中距離弾道ミサイル(IRBM)とデコイを識別する試験「CTV-02+」が行われ、ICBM迎撃試験に備えてきました。

1997年1月17日の「IFT-1」以降に実施されたGBIの飛行・迎撃実験は32回。そのうち18回が迎撃を含む実験で、成功は10回。今回の実験でICBM迎撃は1/1となりますが、これまでの実験における迎撃率は約56%(2017/5/31時点)と、決して芳しい数字ではありません。 信頼性を得るにはまだ実績が必要となります。


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なお、今回の実験で用いられたのは「CE-IIブロック1」です。CE-IIブロック1は11発製造予定で、今回の1発+迎撃試験で使用される1発を引いた9発が配備されます。

新型迎撃体を2種類開発中

  • RKV:再設計型迎撃体
    現在、ミサイル防衛局(MDA)と迎撃体設計担当のレイセオンではRedesigned Kill Vehicle(RKV:再設計型迎撃体)を開発中です。RKVはEKVの信頼性、維持管理性、生産性、価格の手頃さなどの向上が図られています。

    また、より充実した状況判断データ獲得のために、目標探知・識別、オンデマンド通信能力の強化もRKV開発に盛り込まれています。MDAでは、2018年に最初の発射試験を、2019年には最初の迎撃試験を予定しているようです。

    RKV全製造数から実験分を引いた35基が2027年までに配備完了する計画で、44発のGBIの内訳は「RKV」×35+「CE-IIブロック1」×9となります。

  • MOKV:多目標迎撃体

    複数の標的ミサイルが斉射された場合、従来は1発の標的に対し1発のEKV(とブースター)が対応していました。しかし、標的が多弾頭であったりデコイ(おとり)を搭載してある場合に迎撃側の消耗が大きいことから、現在単弾頭であるブースターに複数の迎撃体を搭載して迎撃しようという構想です。

    すでに研究・開発が着手しており、少なくとも2030年までに配備可能な迎撃体の製造が始まるとの見込みです。

今後の展開


GMD_2017_evolution


(CSIS, Missile Defense 2020: Next Steps for Defending the Homeland, April 2017をもとに作成)

EHD期

44発のGBIが配備されます。内訳は「CE-I」×20、「CE-II」×16、「CE-IIブロック1」×8。

2回の迎撃実験が予定されており、1度目がICBM×1発に対して「CE-IIブロック1」×1発を発射、2度目はICBM×1発に対して「CE-I」と「CE-II」の2発を斉射するとのことです。

また、迎撃を含まないRKVの飛行試験もFY2018中頃に予定しています。

RHD期

「RKV」の開発/配備がその中心となります。

もうひとつは、ブースターの開発です。現行のC1、C2ブースターは3段式で長距離射程に限定しています。しかしshoot-look-shootドクトリンを採用するうえでは射程を柔軟に選択可能であるべきで、MDAはブースターを2段式にしたり3段目をshut offする機能を検討しています。

2027年中期までに、「RKV」搭載C3ブースター×35発+「CE-IIブロック1」搭載C2ブースター×9発が配備されます。

3回の迎撃実験が予定されており、そのうちの2回は「RKV」を搭載した2段式/3段式選択可能型ブースターを使用します。最後の迎撃実験では、「RKV」と「CE-IIブロック1」の斉射を含みます。

AHD期

「MOKV」の開発がその中心となります。

2022~2027年にMDAは1年に1回のペースで2段式/3段式選択可能型ブースターを使用した実験を行う予定です。

予想される開発面での問題

オバマ政権下でいくつかのGMD開発計画がとん挫したように、資金問題で進行中のプログラムが縮小したり中止したりといったことは十分に考えられます。

また、現在のプログラムにおいても、2017年~2020年の間にGBIの数が減ってしまうという問題があります。というのも、2017年までに44発のGBIが配備予定ですが、RKV製造が始まる2020年まで追加調達の予定がなく、実験で使用されたり老朽化などによる撤去を考慮すると、2022年には40発に目減りしてしまうとされています。

さらに、2020年にはRKVの配備が始まりますが、「C2ブースター」の配備は2022年からで、新鋭のRKVを信頼性に問題のある「C1ブースター」に2年間搭載しなければならないという問題もあります。

将来の選択肢

戦略国際問題研究所(CSIS)がGMDの能力向上にいくつか提案しています。

  • フォートグリーリー基地に44発を超えるGBIを配備する。
  • 米北東部に基地を追加する。
  • 移動発車可能なGBIの開発。
  • 東海岸の基地に追加配備する。
  • ブースターの数を選択可能なものにして柔軟性をもつ(開発中)。

  • ブースト・フェイズでの直接エネルギー兵器による迎撃。
  • 無人機(UAV)による上昇フェイズでの迎撃。
  • ブースト・フェイズでの運動エネルギー兵器による迎撃。SM-3の発展型など。

  • センサー・ノードの向上が必要。
  • 2004年以降地上レーダーがBMDに組み込まれてきたが、今後はLRDRがカバー範囲を向上させる。
  • 北太平洋やハワイ上空のミッドコース前半にはまだギャップがあり、さらなる高周波レーダーが望まれる。
  • 標的の識別問題を解決するには、センサーの種類とロケーションに幅を持たせなければならない。
  • 宇宙配備の衛星が持続的に標的ミサイルを監視し続けられる利点がある。
  • 衛星の代替・補完として、ニア・スペースの高高度で運用可能なUAVや空中配備プラットフォームがある。

CSIS報告書では、「Left of Launch」コンセプトもGMDを補完するものとして挙げられています。ミサイル発射の前に射手をハード/ソフトキルすることでGBIが対処しなければならないミサイルの飛来数を減らしたり無くしたりしようというコンセプトです。「砂漠の嵐作戦」におけるスカッド狩りの経験から、射手や指揮・管制へのサイバー攻撃といったソフトキルの有効性を説いています。


【参照資料】

【GMDに関する過去記事】
(2012年05月17日) GBIの今後: ICBM迎撃実験は2015年か?

(2013年01月27日) ミサイル防衛:ICBMから米本土を守るGMDの実験が成功

(2013年03月16日) 北朝鮮のKN-08迎撃のためにアメリカがGBIを追加配備

(2013年07月06日) 米本土ミサイル防衛:GMDの迎撃試験は失敗

(2013年07月12日) GBIの迎撃試験「FTG-07」失敗の原因はブースター切り離しか

(2014年05月02日) 米本土ミサイル防衛:GMDの現状と今後の予定

(2014年06月23日) 米本土ミサイル防衛:GMDによる迎撃実験「FTG-06b」が成功

(2014年08月15日) 米本土ミサイル防衛:GBIの米東部配備へ環境アセス開始 
(2016年01月29日) 米本土ミサイル防衛:GMDの飛行実験(DACS性能試験)が成功


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