巨人、邂逅ス【20】Sonny Rollins "Tenor Madness"【1956】

今回の記事が2017年最後になります。ご存知のように、2017年はジャズにとってアニバーサリー・イヤーでした。Original Dixieland Jass Band【wiki】という白人グループが、1917年に初めて”Jazz”という言葉を含むレコードを録音・発表したことから、1917年がジャズの商業録音の開始された年と考えられております。もっとも、このグループ名は”Jazz”ではなく”Jass”だったのですが。当時はこちらのスペルが主流だったそうです。今年はジャズ生誕100年と言われたりしましたが、あくまでも商業録音開始100周年ということになります。

実際にジャズという音楽が生まれたのは、諸説あるものの19世紀末と考えるのが通常です。ジャズ史本などを読んでいるとBuddy Bolden【1877-1931/wiki/ウィキ】という人物が必ず名前が挙がります。彼はBluesやGospelなどと並びジャズの源泉のひとつと考えられるラグタイムを発展させ、今でいうNew Orleans Jazzを生み出したと言われておりますが、20世紀前半に病に倒れ、演奏活動が出来なくなってしまいましたので、録音は遺されておりません。

同じく2017年はモダン・ジャズ黄金時代に大活躍したテナー・サックス奏者John Coltraneの没後50年にも当たります。 コルトレーンは1967年にわずか40歳でこの世を去りました。これにちなみ本年最初の記事では彼の作品を紹介いたしました【ライヴ盤列伝【15】John Coltrane “Live at the Village Vanguard”【1961】】。

記念すべき2017年最後の記事は、Sonny Rollinsの”Tenor Madness”【1956】という作品です。紹介する曲は1曲のみ。それには理由があります。


Sonny Rollins “Tenor Madness”【1956】
ソニー・ロリンズ 「テナー・マッドネス」【1956年】

パーソネルは以下の通り【参照:wiki “Tenor Madness”】。

ts:Sonny Rollins

p:Red Garland 【過去記事
b:Paul Chambers【過去記事
ds:Philly Joe Jones

この作品の最重要ポイントはパーソネルです。リズム・セクションの3人はご存知Miles Davis第一次黄金のクインテットのメンバー。”Tenor Madness”録音の2週間前に、マラソン・セッション【過去記事】を敢行したばかりでした。つまり、この作品は、ソニー・ロリンズがマイルスのリズム・セクションを拝借して録音した、ということになります。

ですが、もう1点更に重要なポイントがあります。超重要です。歴史的重要な要素があります。もったいぶるな!と怒られるでしょうか。既にご存知のジャズ愛好家の方々はイライラさせてしまっているかもしれません。ですが、もったいぶる価値があります。今回は「巨人、邂逅ス」というカテゴリの記事。上掲4人も十分に巨人なのですが、更にもうひとり驚愕のメンバーが1曲のみですが参加しております。先ほど1曲しか紹介しないと言ったのはこれが理由です。そのもうひとりとはジョン・コルトレーン。今年はコルトレーン没後50年ですので、今年最後もコルトレーンで始まり、コルトレーンで〆るということになります。

もう一度、確認します。この”Tenor Madness”というアルバムにはソニー・ロリンズとジョン・コルトレーンが共演した曲が1曲のみ収録されております。「エっ・・・」と絶句した方は正解です。私も初めてこの事実を知った時そう感じました。なんでその2人が参加することが凄いのかと言いますと、ジャズ・サックス奏者と言えば、ソニーかコルトレーンを代表者とするのが一般的です。いわば2人はスーパースター。その二人が、しかも同じテナー奏者が2人が同じセッションに参加するというのは奇跡的であると同時に異質です。しっくりこない感じがします。リオネル・メッシとクリスチアーノ・ロナウドは違うチームにいてライヴァル関係だからこそ輝くのはご存知の通り。

ソニー・ロリンズの過去記事は以下の通り。

21枚目:Sonny ROLLINS “Saxophone Colossus”【1956】

51枚目:Sonny Rollins “Work Time”【1955】

127枚目:Sonny Rollins “The Contemporary Leaders”【1958】

148枚目:Sonny Rollins “Way Out West”【1957】

巨人、邂逅ス【6】Dizzy Gillespie “Sonny Side Up”【1957】

巨人、邂逅ス【12】Sonny Rollins/Coleman Hawkins “Sonny Meets Hawk”【1963】

ライヴ盤列伝【18】Sonny Rollins “The Cutting Edge”【1974】

ジョン・コルトレーンの過去記事は以下の通り。

Jazzを読む【3】ジョン・コルトレーンを整理する


23枚目:John COLTRANE “BALLADS”【1962】

47枚目:John COLTRANE “My Favorite Things”【1961】

112枚目:John Coltrane “Coltrane Plays the Blues”【1960】

Jazz探求【3】John Coltrane “A Love Supreme”【1964】

Jazz探究【09】John Coltrane “Ole Coltrane”【1961】

巨人、邂逅ス【5】”Duke Ellington & John Coltrane”【1962】

ライヴ盤列伝【15】John Coltrane “Live at the Village Vanguard”【1961】

更に、このセッションはマイルス第一次黄金のクインテットから御大マイルスを抜いてソニーを加えたということにもなる訳です。マイルス・クインテットは全員が名手と言う恐るべき構成。マイルスがソニーに変わっただけですが、オールスター・セッションということが出来ます。

ただし、録音されたのが1956年という点に注意しなくてはなりません。といいますのも、当時ソニーはPrestige Recordsからリーダー作を続々と発表し、若手ホープのトップとして頭角を現しはじめていた時期でしたが、コルトレーンは未だリーダー作を発表しておらず、マイルスのクインテットで活躍する若手テナー奏者といった感じの地位に止まっていました。知る人ぞ知るレベルと言っても良いかもしれません。つまり、この音源はソニーとコルトレーンという歴史的テナー奏者の唯一の夢の共演録音ではあるのですが、2人ともまだスーパースターの地位を得る前のもので、特にコルトレーンはほぼ無名の時期のものだったということになります。ですが、この事実が録音の価値を低めることにはなりません。どの分野のアーティストでも、台頭期といいますか、若手の頃の作品が一番刺激的だったというのは良くあるパターンですので。

前置きが長くなりましたが、いよいよ音源です。1曲目収録”Tenor Madness”。ソニーとコルトレーンが
唯一度邂逅した12分間です。

テナー2本による合奏でメロディ・ライン。0:15から始まるソロが恐らくコルトレーン。2:10からソニー。4:25からレッド。いつものように「転がるピアノ」。5:30からP.C.。6:20からテナー奏者2人によるコール・アンド・レスポンスといいますか丁々発止になりますが、こちらも先手がコルトレーン、後手がソニー。11:50でメロディに戻るまで5分以上続きます。ソニーとコルトレーンがテナーで対話しているようなもの。永遠に価値を持ち続ける奇跡の邂逅セッションだと断言できます。

この他の演奏もマイルスのリズム・セクションを拝借してのものですので、素晴らしくない訳がありません。Paul Chambersに捧げたソニー自作曲”Paul’s Pal”はP.C.自身がリズムを刻んでいるので必聴。コルトレーンもこの曲を数度録音しております。

余談になりますが、ソニー・ロリンズと言えば、一時失踪騒ぎを起こしたことで知られております。方向性に悩み、レコーディング活動を止め練習に励んでいたというのが真相ですが、アパートメントで吹くと近所からクレームが入るので、夜な夜なウイリアムズバーグ橋でサックスを吹いていたと言われております。現在ニューヨークでは、ウイリアムズバーグ橋をソニー・ロリンズ橋に改名しようという運動が行われているとか。

2018年も、ジャズ愛聴家の皆様にとって、実り多き年となることを心より願っております。私自身も新たなる発見を求めて、引き続きジャズを楽しんで行こうと考えております。来年もよろしくお願いいたします。

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